「僕と彼女とマヨネーズと 〜後編〜」

僕マヨネーズが大嫌いだ。
でも、僕はその大嫌いなマヨネーズを、たったの一度だけ、自らの意思で口にした事がある。
(この記事は後編です。まずは前編[ip 11月号]からお楽しみください。)

運命の日。

夕方に尼崎を出発した一台のスポーツカーは、明石に向かって国道43号線を快調に走っていた。
運転は僕よりほんの少し年上のバイト仲間で、僕は助手席。後部座席には2人の女の子。
お目当てのあの娘は僕の丁度真後ろに座っていた。後部座席を見ることはできなかったけど話は弾んだ。
顔を見ずの話ならば断然ドモらない。スムーズトーク。道も空いてるスムーズルート。
明石海峡大橋は最高。ドラマチックにライトアップ。エキゾチックな瀬戸内海。
マクドナルドの駐車場に無断駐車で絶景エンジョイ。時が流れてその場の流れで古風な明石焼き屋にゴー。
浮かれて忘れてたけど実は僕、タコ駄目なんです。タコヤキ苦手なんです。
なんて事、口には出せずに放り込んだね明石焼き。
でもね、なんだよ。名物だからって大きすぎるよ具が。明石焼きで具っていったらタコ以外ないもの。
変に名物やめてほしい。でもね、なんとか食べれた。
息を止めたらなんとかなったよ。美味しそうに食べてるあの娘を見てたらなんとかなった。

よかった。明石焼きで。これがもしもタコヤキだったら絶対アレが付いてきてたに違いない。
明石焼きを食べた後、その流れで僕らは例によってカラオケに行く事になった。

当時の僕は歌が下手なのに気付いてなくて、それでも上手く歌おう歌おうとしていたものだから、今思い出すだけでも大変に見苦しい。しかも、今回は最少人数の4人。男2女2だ。当時の僕が上手く歌おうとしないはずがない。
そんな風に、僕だけ力をこめ気味のカラオケルームで2時間ほど経った時、店員さんが食べ物のラストオーダーで部屋に入ってきた。そんな時マイクを握っているのは大抵僕で、その時もそうだった。
ああいう時、店員さんも気にかけてくれているだろうけど、歌を中断するか、そのまま続行するか本当に迷う。
その時僕は歌うのをやめると恥ずかしがって見られる事を嫌ってそのまま歌い続けた。
なので彼女らがラストオーダーで何かを注文していたのは知っていたけど、あまり気には留めなかった。
むしろ、そんな時でさえ上手く歌おうと必死に頑張っていたのを覚えている。

しばらくして店員さんが料理を持ってきた。
タコヤキだ。さっき明石焼き食べたとこなのに。
しかもこのタコヤキ、皿の上で合計8個のタコヤキが2列になって並んでいて、隅っこには僕の大嫌いなマヨネーズがドップリと添えてある。まあ注文したのは彼女たちだし、僕さえ口にしなければ大して問題はない。
と浅はかな考えを抱きながら、僕は店員さんが入ってきたカラオケルームで気まずくマイクを握って、グレイの曲のサビ部分を熱唱していた。
密やかな僕の恋心を知っているバイト仲間が、モジモジしっぱなしの僕を見かねて、彼女に突然強烈なアプローチをした。「どんな人がタイプ?」ビックリして声も出ない僕は、固唾を飲んで彼女の返答に聞き耳を立てた。
しばらくして彼女はこう答えた。

「唇にマヨネーズが付いている人。」

…一瞬なんの事なのか理解出来なかった。タイプの男性が唇にマヨネーズが付いている人?
そんな人間いるのか。四六時中唇にマヨネーズが付いている人間なんて。
でも彼女は本気でそう言っているみたいだ。
その言葉の意味を理解した時、「ああ、この恋は叶う事のない恋なのかな?」そう思った。

彼女は美味しそうにタコヤキを頬張っていた。
そのうち、もう1人の女の子と仲良くじゃれ合いながらマヨネーズがドップリと付いたタコヤキをお互いの口に放り込み合い出した。それがことも在ろうかこっちにも振られて来たのだ。

大好きなあの娘はドップリとマヨネーズが付いたタコヤキを、僕の口に「はい、あ?ん」としてきた。
夢にまで見たあの娘の「あ?ん」。
僕は抵抗しなかった。天使から運ばれてきた悪魔を、僕は受け入れたのだ。愛もまるごと。
涙が出た。色んな意味の。僕は「おいちー!」と言っておどけた。
それからしばらくの間、口を開く事が出来なかったが、最後に愛が勝ったのだ。

その時の僕の恋はそれからしばらくして叶った。
彼女には僕のマヨネーズ嫌いは最後まで黙っていた。
だから交際中にはよく唇にマヨネーズを塗られたものだった。
それでキッスをしたのだ。
アレはアレで絶好調なくらい幸せな時間だったけれど、やっぱり僕は今でもマヨネーズが大嫌いだ。

[コラム] 片岡百萬両 (ミジンコターボ)
ミジンコターボの主宰であり、演出であり、役者であり、宣伝美術であり、れっきとした器用貧乏。なんともポジティブに活動に取り組み、さまざまな劇団から客演の声がかかる忙しい男。
劇団サイト=http://www.mijinkoturbo.com/